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京佐*Kyosuke
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THANK!
2009/08/10 (Mon)
「人、とは。
利でも義でも恐でもない、天によって動かされているのだ。真と理はそれに付いてくる、付属品だ。」
そっと利き手の人差し指で天井をさし、たおやかに空を斬る。その奥で腹の読めない双眸がこちらを試すように覗いていた。艶とでも奇とでも従とでも、いずれにせよ強毒性の視線が咽喉を通り心臓を握手する。この毒が血管を通り全身に巡回するころには恐らく俺はこの男に天命をとして仕えるのだろう。そして循環に要する時間など、皆無に近い。
第一印象。
(史に名高い時代の覇とは、名ばかりではない、ということか。)
言葉にするなら数奇というか奇妙というか。御伽噺か神話の類いのような話だが、人間ではない者による、人間では得ない力で、人間では成し遂げようのない事を、しでかし、こちらの都合を全てねじ曲げられた結果、秀吉様とも左近とも幸村兼続らとも離れここに、俺は居た。
同じような境遇にあった己ら以外の被害者は、遥か一千年もの時代を遡る異国の将。あまりにも常識の範疇を超越する事実に夢物語かと思ったほどだ。
だが、全て真。
己も乱世に生まれ、仮の面も乱世に生まれ、そして、今共に身を置く異形の世もまた、乱世である。
(時は違えど兵法の理はかわらぬものだ。この状況下で、きっと彼らの意見は俺を勝利に導く肥やしになろう。)
この烏合の集とも言えないような陣営の中で、聞けばあの魏国の文帝、曹丕が混じっているらしい。
記録によれば冷徹な采配にある種悪名も高いがその才覚は確かなものだ。そもそも潔癖なまでに高潔な曹丕の姿勢は個人的に嫌いでない。
母国とは違う文化を持ち、大地を持ち、人を持ち、その上に立つものとは。実に興味深い。好奇心と探求心が交差し、滅多にあがることのない口端が持ち上がる。
(その器、見定めてやろう)
そして冒頭に戻る、のだが。
「左様か」
言葉短く伝えれば相手はくつくつと含む笑みを零す。
その表情に少し眉間を寄せ、正直俺は戸惑っていた。
この野心に溢れた眼孔は誰かの下につけるものではない。何れは自身の道を阻む邪魔なこうべを切り落とす、そのために動くだろう。脳即ち利の分で示すに、今この男に近付き現状を打破した上で、機をみて掌を返してしまおう。戦力が分散した今、最も億劫なのは勢力作りであるが、その面倒どころをまかせてしまえばいい。という見解だった。
だが、心のどこかで警鐘が鳴り響いていた。己の全細胞が本能で目の前の男を警戒、というよりは畏怖しているのだ。戦慄だつ背筋が示唆している。こんなことは初めてだ。
暗に言葉を詰まらせそれとなく視線を外す。その俺の様子に痺れを切らしたのか、相手がかけていた椅子から離席する音が耳に入り外した視線を戻したと同時に、俊敏に喉笛に手がかかったかとおもえば、軍議の際に使用していたのであろうか、地形図の広がる卓上に貼り付けられる。第一線で戦う猛将、とは言わないが、決して己も武を怠ったわけではない。だが、あまりの手際に抵抗すらできなかった。
「して、曹子桓は見極められたか?」
「…!」
キリ、と少し隙間を詰められれば、息苦しさに相手の双眸を睨みつける。やはり、その瞳にはあふれんばかりの野心、そして覇が満ちており、募る鬱憤を軽減するように舌を打つ。
曹丕はふ、と息をつき先程空を斬っていた人差し指を眼前にすえ、差し出した己の指先に毒々しい程赤い舌で軌跡を作る。
まったく解せぬ行為に腑が焼け、付き合ってられるかと首にかかる相手の指をむしり取ろうと腕に手をかけた瞬間。
「人は天により動かされている、地の星よ。貴様は私と出会うべくして出会ったのだ。今日日まで東の国で得たもの全ては、肥となり水となり天下に大輪を咲かす糧となろう。」
「離せ…!」
暗示のようにも取れる物言いを振り払うかのように狭まった咽喉から空気を絞り出す。そんな俺の仕草を全て無視して彼は続けた。
「そして私も出会うべくして出会ったのだ。石田、三成という男に」
紡いだ言葉に驚愕し目を見開く。何故俺の名前を知っている?本来初見の際に己の名を名乗るのは常だが、今回にかぎりこの部屋に足を踏み入れ顔を合わせた瞬間この男は開口一番に冒頭の科白を述べたもので、そのまま挨拶もなしに事は走っていた。こちらとしては相手の名を始めあらかたの知識はあったので、さして問題はない、不利なのは相手だと。そう思っていたのだが。
「その治部少輔とやらの官位、豊臣秀吉の見出した天性の才を持ってして、我が軍、に降れ」
次々と遥か千年以上昔の異国の将が知る由もない事実をつらつらと述べる姿に確信した。この男は自分のことを事前に調べあげている。非現実的な戯言を並べていたのも演出の一つにすぎない。名乗りもしなかったのはお互いに不要だという表しだったのか。
偶然が必然を呼んだのではない、必然が偶然の皮を被っていただけだ!
そして何より、矢張『我が軍』と言ってのけるこの口。俺の感じた通り、早くも水面下で動き出しているようだ。
(不気味に感じていた、全ての種があかされた、はずだ、が)
先程感じた胸の奥の警鐘は、未だに静まらない、寧ろ五月蠅くなる一方だ!この男の眼、声、肌に接触する度、比例するかのように。
掴まれていた首がゆっくり解放され、ケフ、と調子を整えるように咳払いをする。同じく解放された曹丕の手はそのまま首筋を指先でつうっとたどり、鎖骨の形をなぞっていく。
また、戦慄が翔ていく。
「ふ、なにも恐れることなど、あるまい?」
心中を読んだかのように体を駆けずり回るそれを磔にする。己が千慮としてなお御せない感情に、そしてその不可解なものが曹丕に手の上で踊らされているようで今までにない程の苛立ちを覚えた。貴様はこの背筋の凍るような恐怖心の正体も知っているのか?
やはり心中を見透かされているようで、曹丕は、知りたければ付いて来い、と言わんばかりの笑みを向ける。
(いいだろう、必ず明白にしてやる)
貴様があの化け物に画策しているように、俺も貴様に画策してやる。後で後悔すればいい。俺はその辺のクズとは違う。龍の威だろうが虎の威だろうが狩ってみせる。
「曹子桓を見せてやろう」
「石田三成、を見せてやろう」
まるで、宣戦布告のように。
胸の警鐘の音は今、合戦開始の陣太鼓の音へと姿を変えた。
******
数年ぶりの小説で最初はいきってたんですが、もうだんだんやっつけ仕事になっていきましたすいません。
取りあえず曹丕に口説いてもらいました。最初はロマンチスト曹丕にときめく三成というのを考えてたんですが、いやもっと曹丕はひねてるしネチっこい!三成も頭きれるだろうし、お見通しなんじゃないか!とおもって全くかわいげのない二人の仕組まれた邂逅篇になりました。補足しないと伝わらないことが多々あるんですが、三成の心の警鐘はドキドキです。本人気付いてないだけ。しかもだんだん逆ギレ。三成って短気だとおもいますはい。曹丕は三成を今回より以前に見かけたとき一目惚れ。あくまで愛情表現です。何故曹丕がお見通しかというと曹丕は恋愛マスターだから
頭いい人のセリフて考えるのしんどい
ていうか今更ですけど治部少輔って役職名?みたいなかんじであってますよね?
利でも義でも恐でもない、天によって動かされているのだ。真と理はそれに付いてくる、付属品だ。」
そっと利き手の人差し指で天井をさし、たおやかに空を斬る。その奥で腹の読めない双眸がこちらを試すように覗いていた。艶とでも奇とでも従とでも、いずれにせよ強毒性の視線が咽喉を通り心臓を握手する。この毒が血管を通り全身に巡回するころには恐らく俺はこの男に天命をとして仕えるのだろう。そして循環に要する時間など、皆無に近い。
第一印象。
(史に名高い時代の覇とは、名ばかりではない、ということか。)
言葉にするなら数奇というか奇妙というか。御伽噺か神話の類いのような話だが、人間ではない者による、人間では得ない力で、人間では成し遂げようのない事を、しでかし、こちらの都合を全てねじ曲げられた結果、秀吉様とも左近とも幸村兼続らとも離れここに、俺は居た。
同じような境遇にあった己ら以外の被害者は、遥か一千年もの時代を遡る異国の将。あまりにも常識の範疇を超越する事実に夢物語かと思ったほどだ。
だが、全て真。
己も乱世に生まれ、仮の面も乱世に生まれ、そして、今共に身を置く異形の世もまた、乱世である。
(時は違えど兵法の理はかわらぬものだ。この状況下で、きっと彼らの意見は俺を勝利に導く肥やしになろう。)
この烏合の集とも言えないような陣営の中で、聞けばあの魏国の文帝、曹丕が混じっているらしい。
記録によれば冷徹な采配にある種悪名も高いがその才覚は確かなものだ。そもそも潔癖なまでに高潔な曹丕の姿勢は個人的に嫌いでない。
母国とは違う文化を持ち、大地を持ち、人を持ち、その上に立つものとは。実に興味深い。好奇心と探求心が交差し、滅多にあがることのない口端が持ち上がる。
(その器、見定めてやろう)
そして冒頭に戻る、のだが。
「左様か」
言葉短く伝えれば相手はくつくつと含む笑みを零す。
その表情に少し眉間を寄せ、正直俺は戸惑っていた。
この野心に溢れた眼孔は誰かの下につけるものではない。何れは自身の道を阻む邪魔なこうべを切り落とす、そのために動くだろう。脳即ち利の分で示すに、今この男に近付き現状を打破した上で、機をみて掌を返してしまおう。戦力が分散した今、最も億劫なのは勢力作りであるが、その面倒どころをまかせてしまえばいい。という見解だった。
だが、心のどこかで警鐘が鳴り響いていた。己の全細胞が本能で目の前の男を警戒、というよりは畏怖しているのだ。戦慄だつ背筋が示唆している。こんなことは初めてだ。
暗に言葉を詰まらせそれとなく視線を外す。その俺の様子に痺れを切らしたのか、相手がかけていた椅子から離席する音が耳に入り外した視線を戻したと同時に、俊敏に喉笛に手がかかったかとおもえば、軍議の際に使用していたのであろうか、地形図の広がる卓上に貼り付けられる。第一線で戦う猛将、とは言わないが、決して己も武を怠ったわけではない。だが、あまりの手際に抵抗すらできなかった。
「して、曹子桓は見極められたか?」
「…!」
キリ、と少し隙間を詰められれば、息苦しさに相手の双眸を睨みつける。やはり、その瞳にはあふれんばかりの野心、そして覇が満ちており、募る鬱憤を軽減するように舌を打つ。
曹丕はふ、と息をつき先程空を斬っていた人差し指を眼前にすえ、差し出した己の指先に毒々しい程赤い舌で軌跡を作る。
まったく解せぬ行為に腑が焼け、付き合ってられるかと首にかかる相手の指をむしり取ろうと腕に手をかけた瞬間。
「人は天により動かされている、地の星よ。貴様は私と出会うべくして出会ったのだ。今日日まで東の国で得たもの全ては、肥となり水となり天下に大輪を咲かす糧となろう。」
「離せ…!」
暗示のようにも取れる物言いを振り払うかのように狭まった咽喉から空気を絞り出す。そんな俺の仕草を全て無視して彼は続けた。
「そして私も出会うべくして出会ったのだ。石田、三成という男に」
紡いだ言葉に驚愕し目を見開く。何故俺の名前を知っている?本来初見の際に己の名を名乗るのは常だが、今回にかぎりこの部屋に足を踏み入れ顔を合わせた瞬間この男は開口一番に冒頭の科白を述べたもので、そのまま挨拶もなしに事は走っていた。こちらとしては相手の名を始めあらかたの知識はあったので、さして問題はない、不利なのは相手だと。そう思っていたのだが。
「その治部少輔とやらの官位、豊臣秀吉の見出した天性の才を持ってして、我が軍、に降れ」
次々と遥か千年以上昔の異国の将が知る由もない事実をつらつらと述べる姿に確信した。この男は自分のことを事前に調べあげている。非現実的な戯言を並べていたのも演出の一つにすぎない。名乗りもしなかったのはお互いに不要だという表しだったのか。
偶然が必然を呼んだのではない、必然が偶然の皮を被っていただけだ!
そして何より、矢張『我が軍』と言ってのけるこの口。俺の感じた通り、早くも水面下で動き出しているようだ。
(不気味に感じていた、全ての種があかされた、はずだ、が)
先程感じた胸の奥の警鐘は、未だに静まらない、寧ろ五月蠅くなる一方だ!この男の眼、声、肌に接触する度、比例するかのように。
掴まれていた首がゆっくり解放され、ケフ、と調子を整えるように咳払いをする。同じく解放された曹丕の手はそのまま首筋を指先でつうっとたどり、鎖骨の形をなぞっていく。
また、戦慄が翔ていく。
「ふ、なにも恐れることなど、あるまい?」
心中を読んだかのように体を駆けずり回るそれを磔にする。己が千慮としてなお御せない感情に、そしてその不可解なものが曹丕に手の上で踊らされているようで今までにない程の苛立ちを覚えた。貴様はこの背筋の凍るような恐怖心の正体も知っているのか?
やはり心中を見透かされているようで、曹丕は、知りたければ付いて来い、と言わんばかりの笑みを向ける。
(いいだろう、必ず明白にしてやる)
貴様があの化け物に画策しているように、俺も貴様に画策してやる。後で後悔すればいい。俺はその辺のクズとは違う。龍の威だろうが虎の威だろうが狩ってみせる。
「曹子桓を見せてやろう」
「石田三成、を見せてやろう」
まるで、宣戦布告のように。
胸の警鐘の音は今、合戦開始の陣太鼓の音へと姿を変えた。
******
数年ぶりの小説で最初はいきってたんですが、もうだんだんやっつけ仕事になっていきましたすいません。
取りあえず曹丕に口説いてもらいました。最初はロマンチスト曹丕にときめく三成というのを考えてたんですが、いやもっと曹丕はひねてるしネチっこい!三成も頭きれるだろうし、お見通しなんじゃないか!とおもって全くかわいげのない二人の仕組まれた邂逅篇になりました。補足しないと伝わらないことが多々あるんですが、三成の心の警鐘はドキドキです。本人気付いてないだけ。しかもだんだん逆ギレ。三成って短気だとおもいますはい。曹丕は三成を今回より以前に見かけたとき一目惚れ。あくまで愛情表現です。何故曹丕がお見通しかというと曹丕は恋愛マスターだから
頭いい人のセリフて考えるのしんどい
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