丕三前提三←幸
午前二時。なんとも不躾な。
とっぷり眠りに落ちていた体はけたたましい携帯の着信音に引きずり上げられる。
一瞬夢か現実か曖昧な状態のなかで枕元が定位置の携帯を手だけで探り、ゆっくりと覚醒しはじめた脳は言う。こんな時間に己に着信してくる人、なんて一人しか思い浮かばない、と。
「はいもしもし」
『…ゆきむら、…会いたい』
ほらね。やっぱりこの声だ。
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数ヶ月前に取得したばかりの免許、を警告するために張られた若葉マーク、の付いた親のお古のウィッシュ。初心者向きの車じゃない。絶対ぶつける。だが、幸いにも私は運転が上手かった。
財布と携帯と車の鍵をもって寝間着であるジャージにTシャツのままというラフすぎる格好でハンドルを握る。
彼の住む家は私の住む家から車で40分はかかる、が。
彼に指定された場所は彼の住む家ではなくそれよりさらに倍は走らせる山梨よりの郊外だった。
なぜそんなとこに?
思わないわけではないが、なんとなく予想がついたので電話での問答は追従に、わかりました、と一言だけ返し通話をきる。
現在時刻が2時すぎなので到着は3時を超えてしまうが大丈夫なのだろうか。
懸念したところでドラえもんや時魔道士の類が出てきて助けてくれるわけはないので自分に出きること、即ちアクセルを強めに踏むことにとりあえず一生懸命勤めることにした。
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パタンと携帯を閉じれば、真っ暗闇のなか目がちかつくほど主張するサブディスプレイの時計版。それも直ぐに闇に飲まれていく。
だれも居ない駅のホーム。終電は俺が数時間前に乗ったもだった。つまり俺がここにきて誰かが降車する姿をみることはなく、さらに幾宛がなければこの地にたつのになんの理由もない俺はイタズラにホームから改札を抜けず、備え付けの椅子に腰掛ける。
しばらくすれば駅員の姿も消え照明も落ち、今時の生活ではなかなか体験するこてない真の闇夜が視覚を奪っていった。
五感とは、一つが欠ければ残りがより研ぎ澄まされ敏感になっていくものだ。しかし、どうやら俺の五感は怠けているのか体調不良なのかはしらないが敏感になるどころか寧ろ鈍感、低迷していく。
真っ暗闇のなか目がちかつくほど主張するのは、痛覚だけ。
(あぁ、もしかすると、少し辛いのかもしれない。)
家を飛び出してから約2時間。
未だ携帯電話は俺を呼んではくれなく。
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渾身の努力のかいあってか予定時刻より15分程早く付いたその場所に車をとめ、施錠しながら携帯の履歴ボタンを押す。小さな駅であるそこをコールを聞きながら少し探し歩いてみた。だが、照明が助けのないこの場所は人間の視力には余りにも難易度が高く、実質探すというよりはうろうろしているだけにすぎないのだが。
ぷつ、頼りのコールが途切れた。
『……、ひ?』
あ。
「…つきましたよ。今どこですか?」
『…ホームの中だ。今向かう』
「わかりました。待っています」
逃げるように終話ボタンを押す。じとっと暑さはからではない汗が手に滲むのが分かる。
一瞬、かすかにささやかれたつぶやきをこの耳は目ざとく聞き逃さず、さらにこの脳はちゃんとその意味まで理解してくれた。大きなお世話なことこの上ないのだが。
(…チッ)
持っていた携帯を地面にたたきつけようかと、大きく腕を振り上げてみた。しかし、痛快に下ろされることはなく、ただ滑稽にあるべき場所へと戻っていくのみ。あるべき、場所、か。
彼が何故こんな夜中に自分を呼ぶのかも、彼が何故こんな偏狭を彷徨っているかも、なんとなく予想はついていた。
(それが私のあるべき場所なのか)
タン、タン、タン。
「幸村っ」
この暗闇にも幾分か馴れた瞳で階段を下りてくるその姿を見、ふっと何かの力が抜けていく。ん?なにが降りていったのだろうか。ああ、もしかすると自分が思っていた以上に緊張というか緊迫していたのかもしれないな(なんせ、こんな真夜中にたった一人でこんなとこに)(そうだ、そうに違いない)
たったっと、小走りでこちらに走りよってくる姿は少し幼児を彷彿とさせた。(常はアレなのだが、たまに彼は妙な子供らしさを垣間見せるときがある)
「もう、こんな時間にこんな所でなにをやってるんですか」
「…すまない」
申し訳なさそうに垂れたこうべ。ぴょんと跳ねた髪がわずかに風に揺れる。
私は知っている。こうするときは許しではない、受容がほしいのだ。
ゆっくりと己のものより多く空気を孕みふわりとする髪を撫でてやれば、答えるように静かに瞼は下りていった。同時に翔けて来たためだろう少し乱れていた呼吸も、静かに収まっていく。
落ち着いたところを見計らって、頭の往来していた掌を下ろす。名残惜しそうに一瞬彼の目が泳いだ。
「さて、どうしましょう。車に揺られたいならこのまま山梨ぐるっとまわりましょうか?それとも、後ろでゆっくりします?」
「これ以上迷惑は、かけられない…」
「では代償に、もう目が冴えて寝れなくなってしまった私に少し付き合ってください。だから、ね?」
ちゃんと三成の好きなアセロラジュースもありますよ?
私は知っている。彼の中で助けを求めることと他人に迷惑をかけているということがイコールで結ばれていることを。
だから、想定通りの科白に少し心中で笑みを零し、道中コンビニで対策用に購入した彼の好物をちらつかせた。
理由を与えてあげれば、ちゃんと寄りかかってくれるのだ。
「それなら、一緒にいてやらんこともない…」
(私にはこんなに彼が何を求めているのか、手に取るようにわかるのに。)
ガソリンを燃やさせることは気を使って首を立てにはふってくれなかったので結局後部座席でごろごろになった。
家族用車なのでそれなりに広く、成人男性二人の容量くらいは十分受け止めてくれる。
静寂のなかで、ぽつぽつと単位がどうとか講師がどうとか他愛もない会話を交わす。(彼は音楽があまりすきではない)
どれだけ時間がたったのかはいまいちわからないが、話が丁度区切りがついたとこで彼は不意に手持ちの携帯を確認するしぐさをとった。
携帯の液晶の光は決して強いものではないが、暗闇に慣れた目は少し驚くいてしまう。
その瞬間だった。驚愕したのはどうやら、瞳孔だけではないらしい。
「…これ、」
薄明かりの中で初めて気付く。
手首に残る鮮やかな圧迫紺。指摘すれば、すぐさまその傷を隠してしまった。
備え付けの照明を灯し、はっきりとした光に彼はまぶしさからかきゅっと瞳を閉じる。その隙に隠した左手を掴めば、彼は少し苦痛に顔をゆがませた。先ほどのわずかな光の中でも十分すぎる存在感をだしていたその痕は、灯の元で痛々しさを何倍にも増加させた。爪跡をたどるようにわずかに皮膚がはがれているところもある。自然に己の眉間に皺が刻まれていくのがわかった。
まさか、とおもい彼の纏うカッターのボタンを一つずつはずしていけば、さすがに抑制の声が上げられる。だがその言葉を冷たく無視し肌を開放すると、予想は見事に的中。思わず舌打ちを零した。
まるで濃度の高いアルコールを舌に落としたような熱が心に広がっていく。
誰がつけたものなのかは、推測せずとも解すのは至極安易だ。
一度だけ、見たことがある。共に下校している中、偶然町ですれ違ったのだ。
あの時代錯誤な長髪を風に靡かせ、こちらを冷徹な眼光で射抜く、男の人に。
三成自身、色恋の話を好き好んでするほうではない。なので日常会話の中ではまったくといって話題としてはあがることがないが、その見かけた時だけ、彼は説明というか補足するようにあとでこっそり教えてくれた。
たぶん、あの見下すようで噛み付いてくる視線に私が気を悪くしないよう気遣ってくれたのだろう。
あの人、が。私の大切な彼をこんな痛ましい姿へと変えてしまった。
「…三成」
「もう、いいだろう…」
いい?なにがいいっていうんだ。こんな傷だらけの体をして、こんなに必死に縋って。
なのに一向になることのない携帯を握り締めて!
いい?なにがいいっていうんだ。こんな気丈に振舞って、こんな泣きそうな顔して。
なのに泣けないでいるのに!
「なにが?」
そっとサイドガラスに追い詰め狼狽する君に口付けを落とす。まさか彼と接吻することになるとは。ましてや、こんな形が初めての、になるとは。可笑しい。
うすく開いた構内に己の舌を押し込み隅からゆっくりと堪能する。ひゅっと合わさる唇の隙間から漏れる呼吸の音が熱を扇情させた。押し返そうとする煩わしい両手もさっさと縫い付けて融解するように歯列をたどった。今まで経験してきた同じような行為の中で、触感も味覚もほとんどか変わらないはずなのにまるで経験したことのない甘いしびれが確かに背を走っていく。可笑しい
ああ。どうしてこんなに喉がかわくのだろうか。
開放された口許は酸素を掴む。唾液でぬれた唇が光を反射していた。
「今日は変だぞ…っ」
逃げるようにふいっと背けられた顔を頬に手を沿え無理にこちらにむかせる。
目の前の表情は、長い付き合いの中で初めて見せてくれたものだった。
変?なにも変じゃないですよ。只貴方が何も知らなかっただけ。
「迎えに来てくれないあの人を、鳴らない携帯を忘れさせてあげますよ」
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出会ってからずっと見ている柔らかな褐色の髪。
他人を敬遠するようなことばばかり紡ぐ唇。
時折、親しいものにだけ見せてくれる笑顔。
それから
あの人と出会って、住むようになって、妙な艶かしさを孕むこの肌。
彼が何故こんな夜中に自分を呼ぶのかも、彼が何故こんな偏狭を彷徨っているかも、全ての理由を私は確かに知っていたのだ。
(それが私の位置)
知音、という二文字が空気を振るわせるほどの轟音を立てえ眼前に落ちてくる。
絶対すぎるその立場に嘔吐感さえ覚えた。
ずっと一緒に入れればそれで。
テスト前になれば共に机を囲んで勉強して、夏休みになれば共に旅行にいって、年越しを共に過ごして、大学受験の成功に共に笑って、それが私にとっての一番の幸せだったのに。
すべてあの人が変えたんだ。
あの人に愛でられたこの肌が私を蝕んで、大好きだったこの言葉を黒く汚して、重い重い枷へと変えてしまう。
(助けてあげたい、護ってあげたい)
金蘭の契?はは。
(手に入れたい、奪ってしまいたい)
これは、邪恋の念。
静かに、確実に指先は進んでいく。たまに憎悪に駆られて傷跡に爪を立てながら。
そして寂しさに、人肌に流されそうになりながら彼は言う。やめろ。だめだ。たのむ。ゆきむら。
「彼にも妻がいるんでしょう?なら三成だって。そうでもしないと不公平じゃないか。」
「だめだ…、こんな」
「いいんですよ、大丈夫、誰にもいいませんから。…だから…甘えて?」
(傷ができたら何度でも舐めてあげる)
(傷口が開いたら何度でもふさいであげる)
(逃げ出したなら何処までも迎えにいってあげる)
(逃げ出したいなら何処までも連れて行ってあげる)
(夜が怖いなら何時でも手を握ってあげる)
(眠れないのなら何度でも抱いてあげる)
(泣けないのなら何回でも泣かせてあげる)
(夢が見たいのなら何回でも見させてあげる)
(私にはこんなに彼が何を求めているのか、手に取るようにわかるのに。)
(私は貴方の望むものを何でも与えることができるのに。)
(どうして)
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な が い!(いらいら)こんな薄い話がこうも長いと読む気がうせる。
ひと悶着してプチ家出三成。曹丕に愛ないみたいなかんじになってますが、愛はあります。その話はまたいずれ。ちょっとはどろどろしてきたかなーもっとどろどろさせるぞ同棲パラレル!
駅の感じはもろ実家周辺のかんじです。蛍光灯なんてないよ。
しかし3の影響かな、今まであんまり触れたことなかったんですが幸三があっつい!あっつい!丕三←幸があっつい!くそあつい!!すっごい幸村にトキメイテマス!はうはう。いつも以上にツンのかけらもない三成と黒くなりそうでなりきれないつらい幸村が好きです。はうはう。いいとこ全部王子がもっていくんだぜ。
さすがにパラレルで三成殿はと思い、三成様?三成さん?三成君?三成氏?みつなりっち?三成ちゃん?といろいろ考えたんですが、どれもしっくりこなかったので呼び捨て。なんか違和感あるけどね!あと幸村のしゃべりかたが全くわからないよ!まったくらしくなくてみてられないなしか普通の台詞が思い出せない。キャラ崩壊はパラレルだしいいよね!
幸村の車が家族車なのは友情メンバーで遊ぶときに便利なので。
余談ですが、
三成は無免。兼続は使ってない原付免許。慶次は大型二輪。左近はマニュアル。曹丕は私の知識を超越した優雅な世界(?)
三成は免許とったっらプリウスとかフィットとか軽とか燃費重視の車。ラパンとかのってたらちまくてかわいい(177が)。エンブレムウサギさんのやつ。
左近はハリヤー。なんとなく。
バイクはわかりません。
曹丕は私の知識を超越した優雅な世界。ロールスロイスで。あえて日本車すきでもいいな。
今年の梅雨明けは遅く、大学はとっくに夏休みにはいっているのに、一世一代の蝉の晴れ舞台や殺人的な太陽光の雨は未だない。
クーラーは嫌いだった。だが、むせかえるような暑さも大嫌いだった。総じて夏自体嫌なのだ。
そんな俺にとって、今夏はえらく過ごしやすいのだ。
(例えどこかで人が死んでいたとしても。)
「曹丕、今日はいつもより涼しい」
虫除けのために貼ってある網戸から入る夜風に髪がわずかに踊る。家主の富と名誉のお陰で都会の一角にも関わらず、偉く広い部屋と偉く佳景な窓の外。俺はこの窓が密かに気に入っていた。暇さえあれば窓際に座っている。勿論今も。
家主といえば暑いか寒いかそんなことどれもさして興味はなさげに贔屓にしている銘柄の煙草とじゃれあっていた。己の言葉にない返答を待つわけではないが、なんとなしにその様を眺めていれば再びふきはいった風に自分の髪は遊ばれ、そのまま曹丕の髪にも絡んでいく。長い前髪がふわりと散った。
曹丕は座っていたソファーから立つ。
そのまま俺の横を過ぎ、空間を遮っていた網戸を綺麗に覗き、ベランダへ出て行く。
俺は後を追った。
外はまるで額縁に飾ってある絵画の中に飛び込んだような、そんな錯覚さえ起こす程現実ばなれした盛観さである。
曹丕は落下防止に作られた際に体を預けお供に連れてきた煙草に着火した。
唇に挟まれ酸素を入れた火種はひとしきり燃え上がり己の命を削る。
じりじり迫ってくる死をみていると、闇夜にうかぶその火種はまるで生命を宿したかのように、光輝く姿が直感的に蛍のようだとおもった。
誰かのエゴで殺されていく。
肺に溜めた紫煙を一気に吐き出す。風上にたつ俺にはかすりもせず闇に紛れていった。曹丕の優しさの一つだ。
そして間もなく
偽形蛍は死んだ。
「寒くないか?」
「まったく」
「…ここは嘘でも寒いというところだ」
何故だ。反論するまえに蛍の死臭が残る腕に包まれる。
突然の行為にさして驚きもなく頭の中ではこの行為と寒いという言葉をイコールで繋げた。こうしてほしいときは寒いといえばいいのか。覚えておこう。
口元が寂しいのか首筋にピリッとした痛みが走り噛みつかれていることを知った。曹丕には僅かだが噛み癖がある。だから誤魔化すように煙草を吸ってるんだ。そんなもので誤魔化すくらいなら厭きるほど俺を噛めばいいのに。曹丕になら皮膚でも指でも持って行かれたっていい。馬鹿。
「…曹丕」
今夜の冷気に乗ってぽつ、ぽつと雨が降り出す。あっという間に群れは加速し、地に叩きつけられ弾け、要は土砂降りというやつだ。
大粒の雨が落ちていく様をベランダで暫く眺めていた。跳ねた雫に少しずつ服に滲みを作り髪は束なっていく。雨は好きだ。曹丕も好きだ。ここを動く理由がなかった。
「抱きしめてほしいときは寒いといえばいいのはわかった。ならばキスしてほしいときはなんと言えばいい?」
「さぁ、な」
答えを教えてくれぬままに合わさる唇は異常なまでに熱く、ふと先程見た闇夜に浮かぶ灯を思い出す。
蛍
風向きと強さを変えた酸性雨にお互いすっかり全身蝕まれてしまった。それでも偽形蛍は消えない。気分が高揚する。このまま、ずっと、このままでいたい。
もし願いが叶うなら迷わず俺はこう唱えるだろう。
「 」
(例えどこかで泣いている人がいてたとしも)
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三成がツンツンしてないよ。カップリングに絶対外せないのは噛み癖です!どっちにつけようかずーとなやんで、なやんでなやんでとりあえず曹丕につけましたが、多分三成にもつける。似たもの同士だしいいよねーという結論。私は雨が好きです。泣いてるとかしんでるとかは災害とか凶作とかそんなかんじ。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
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